2.5 社会学:コミュニケーションが現実をつくる
ここまでを順番に見てくると、フランスの哲学者、ミシェル・フーコーらの流れを汲む社会構成主義の主張は、もはや私たちを驚かせないのではないでしょうか。これは、絶対的客観は存在しないとする現代物理学の考え方に対する、社会学からの視点です。
社会構成主義では、客観的かつ絶対的な事実など存在せず、社会の中で行われるコミュニケーションが現実をつくっていくと言います。人々はお互いの言葉のやり取り(対話/ダイアログ)の中で意味を見出していくのであり、結論として”Words create world(言葉が世界を創る)”とも言われます。

誤解のないように付け加えると、これは、実際に起こった出来事やデータを無視して良いということではありません。そうではなく、それらの出来事やデータをそれぞれがどんな感情で受け取り、どう意味付けるかという主観も大切だということであり、主観の異なる複数の個人が集まって互いの主観を持ち寄り対話する中でこそ、起こった出来事に対するその組織にとっての意味が浮かび上がってくるのです。
社会構成主義の考え方は、昨今、あちこちで聞かれるようになった「組織開発」と呼ばれるアプローチの根底にあります。VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字で、先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態を表す)と言われる世の中ではニュートン/デカルト的な考え方に基づく経営コンサルティングのような診断型アプローチに限界が見えてきました。そこで台頭しているのが、組織開発です。組織開発では、対話が重視されます。対話を通じて、組織の現在地を理解し、あるべき姿に近づくために、「共有のビジョン」や「思い」を紡ぎだすことが重要という考えに基づくからです。
多くの組織は、自覚はないかも知れませんが、ある種の混乱を最小限に抑えたいという発想を根っこに持っています。事前に決められるアジェンダ、美しく整えられた資料、できるだけ感情を交えず理路整然と語られる主張、これら全ては安定を重んじ、組織内でのパターン化された行動を踏襲するための努力です。
それが強みとして発揮されている限りは良いのですが、これだけを繰り返していると、大きな環境の変化の中で、自分自身を壊しながら作り替えるという能力がどんどん失われてしまいます。時として痛みを伴うかもしれない対話を起こすための考え方や手法が、昨今、生まれ実践されています。これはすなわち、個人だけではなく、組織にも、「自己変容型知性」が必要とされているからでしょう。


